都知事の言動/歴史認識の妥当性がとえない副知事作家の「ビミョー」な発言と俗流言語論/若者論

猪瀬直樹に聞く 今、リーダーに必要なのは「言葉の力」と「歴史認識」

 子どもや保護者など、学校教育を取り巻く状況が怒濤の勢いで変化しつつあ
る現在、どのようなリーダーであれば、子どもを伸ばし、急増中の若手教員を
育てることができるのか。各界著名人への連続インタビューにより考えてみた。

 この国を復興していくために、教育の担う役割は大きい。今こそ、学校リー
ダーのあり方を改めて考え直すべきときだ。

 作家であり、東京都副知事でもある猪瀬直樹さんに、世界と比較したときの
日本の教育の問題点と、学校リーダーのあり方について話を聞いた。

□今こそ言語技術教育を

 最近、他者とのコミュニケーションを苦手とする若者が増えています。彼ら
は自分の周囲のことにしか関心が持てず、新聞や雑誌などもあまり読まず、気
の合う仲間と限られた世界に閉じこもっています。仲間とのコミュニケーショ
ンを過度に重視する一方で、仲間以外の他者を意識したり、受け入れたりする
ことが面倒になってしまっているのです。停滞した日本経済の影響もあって、
彼らは狭い世界で無難に生活することを望み、心理的な鎖国状態に陥っていま
す。

 彼らに「〇〇が好きですか?」と尋ねたら、「ビミョー(微妙)」「フツー
(普通)」などという答えが返ってくるだけで、会話がつながっていかないで
しょう。彼らは親しい仲間としかコミュニケーションをとりませんから、短い
センテンスで会話が成立し、その状況が当たり前になっています。仲間以外の
他者とは会話ができないのです。

 当然、議論も苦手です。NHK教育テレビで深夜に放送された「ハーバード
白熱教室」で繰り広げられるような活発な討論は、日本の大学では見られませ
ん。

 なぜ日本の若者たちはこれほど会話ができないのでしょうか。その原因の一
つは、彼らが会話や議論のルールを知らないからです。これまで、日本の学校
では言語技術を教えてこなかったからです。これに対し、欧米では発達段階に
応じた言語技術の教育が当然のように行われています。国際化・情報化が進む
現代社会を生き抜く人を育てるために、日本人には今、言語技術教育が必要と
されているのです。

□言語にも国際ルールがある

 日本人は集団主義だといわれます。たとえば、クラスほぼ全員が紐で足首を
縛って走る「30人31脚」や、一緒に跳び上がる大縄跳びのように、横並びで同
時に動くことは得意です。野球のようにポジションが決まっているチームワー
クにも強い。しかし、サッカーやバスケットボール、ラグビーなど、個人がそ
れぞれに判断し、コミュニケーションをとりながら動的にチームワークを発揮
していくのは苦手です。

 日本人は他者を取り込んでコミュニケーションをしていくことが苦手なので
す。同質のチームワークには強いのですが、異質のチームワークに弱い傾向が
あります。グローバル化により異質のチームワークが求められる時代になり、
このままでは海外との差がどんどん開いてしまいます。実際に、言語技術力の
到達度を測る「国際的学習到達度調査」(PISA)の読解力テストで、日本
人が上位にいけないことからわかるように、言語技術ではすでに後れをとって
いるのです。

 だからといって、あきらめる必要はありません。世界で通用する言語のルー
ルを基礎から体系的に学び、スキルの訓練をしながら、言葉を運用する技術を
身につけていけば挽回は可能です。「ハーバード白熱教室」のレベルまではい
かなくても、近い将来、日本の学校でも先生と生徒の間で有意義な議論が展開
されるようになってほしいものです。

□歴史的時間軸を失った日本人

 言語技術のほかに、もう一つ日本人の言語力の低下の原因として考えられる
ことがあります。それは、歴史認識の問題です。日本人から歴史的時間軸が失
われたことが言語力の低下につながったのではないかと僕は思っています。

 ヨーロッパには西暦という一本の時間軸があります。しかし、日本の歴史は
敗戦によって昭和20年8月で分断され、戦後教育では史実と自分自身との関係
をとらえる時間軸を失ってしまったのです。

 戦前にしてきたことは悪とされ、今と切り離して考えがちですが、その時代
があったからこそ今があるのであり、すべては今につながっているのです。

 学ぶべき点があるにもかかわらず、すべてを否定してしまったために、日本
人は大事な言葉まで失ってしまった。

 学校の先生には、われわれ日本人は点として存在しているのではなく、歴史
の時間軸の中の通過点にいるのだという歴史的な認識を持っていただきたいも
のです。具体的には、古事記までさかのぼって学んでいく必要があるでしょう。
連続性がないから日本人はアイデンティティーを説明できないですし、自国の
文化に興味も、誇りも持てないのです。自分たちはどこからきて、どうやって
今のような社会を築いたのか、歴史の大きな流れを理解することで、日本人な
らではの価値観が育まれるのです。

 また、日本には俳句や短歌という表現形式があります。俳句は五七五の短い
言葉の中に季語を入れ、必要な情報をきちんと入れています。これも立派な言
語技術です。中世には連歌というものがありました。連歌は、複数の人々が上
の句(五七五)と下の句(七七)を呼応するように連作で詠み合うというルー
ルに基づいています。このような伝統があった時代には、型を学ぶことで言葉
の力が引き継がれていたのです。

 今の状況は、このような伝統的な言語技術が崩壊しかけ、グローバル社会で
共有されている言語技術でも後れをとっています。今後はPISAで問われる
ようなヨーロッパ型の言語技術を身につける教育をしながら、同時に、俳句や
短歌のような日本語のリズムに基づいた言語技術も学ぶ必要があります。両方
をきちんと身につければ、日本人は言葉の力で優位に立つことができるのでは
ないでしょうか。

□東京から言語力の再生を

 昨年4月、世界基準の「言語力」を身につけて世界で活躍できる若者を育成
すべく、東京都では「<言葉の力>再生プロジェクト」を立ち上げました。

 新規採用職員や就業支援担当者などを対象とした言語力研修を実施したほか、
新たに東京都職員と首都大学東京の学生を対象とした言語力講座も開催し、少
しずつですが効果が現れてきています。

 学校現場に対しては、今年度から「言語能力向上推進事業」を開始していま
す。公立学校65校(小・中学校50校、都立学校15校)を言語能力向上推進校と
して3年間指定し、活字に親しむ学校づくりを通して言語能力の向上を図って
います。これに先立ち、子どもたちの言語力を向上させるには、学校の先生の
言語力を高めることが必要であるということで、昨年夏、公立学校の教員を対
象に言語力向上のための研修を実施しました。

□言葉の力が国民力を上げる

 昨今の政治家の発言を聞いていると、その言語力の低さには嘆かわしいもの
がありますが、これが現在のわが国の言葉力のレベルなのです。テレビ番組も
映画も、小説も、国民の言語力のレベルを反映しています。人間は言葉でもの
を考えます。だからこそ、言葉の力を鍛えて国民力の底上げをしなければなら
ないのです。「言葉の力」の復興によって、価値観の異なる相手とも対話によ
って問題解決ができる人材を育て、世界のグローバル化の流れに追いつかなく
てはなりません。

 今この国は、第二次世界大戦以来の日常性の断絶を経験しています。東日本
大震災によって生まれた国難を起点として、この国を復興していくためには、
今こそ、国を挙げて「言葉の力」を磨き、世界と対峙していく力をつける必要
があります。学校教育のリーダーはきちんとした言語技術と歴史認識の両方を
身につけ、現場の教師や子どもたちを導いてほしいと願っています。


                    (『総合教育技術』9月号 掲載)





●新刊『知の政治経済学 あたらしい知識社会学のための序説』(三元社)
http://sociologio.at.webry.info/201004/article_4.html
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/266.htm

知の政治経済学―あたらしい知識社会学のための序説
三元社
ましこ ひでのり

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 知の政治経済学―あたらしい知識社会学のための序説 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック